【ライトノベル感想】人類は衰退しました 9
あらすじ
わたしたち人類がゆるやかな衰退を迎えて、はや数世紀、すでに地球は“妖精さん”のものだったりします。そんな妖精さんと人間との間を取り持つのが、国際公務員の“調停官”であるわたしのお仕事。
月に行ったまま音信不通となった祖父の訃報(のようなもの)が届き、わたしは祖父を捜しに月に行くことを決心。そんなわたしに妖精さんがくれたのは、『いま←→さいしょむせいげん』と書かれたフリーパス。
人間の進化が車窓に流れる蒸気機関車に乗った、わたしが着いた旅の終着駅は夢?それとも…。ついに、かんけつです!!??
最高でした。いつものようにネタばれをあまりしないよう書いていきたいと思っていたのですが、予想以上に素晴らしい終わり方だったのでがっつりネタバレありで書いていこうと思います。
ネタバレ注意!(なるべく記事の一番最後に重大なネタばれを書くので、見たくない人は今直ぐバック!)
あとがきを読んで気付きましたが、8巻との上下巻なのですね。確かに8巻から続くという珍しい終わり方でしたが。
おじいさんが月にいって音信不通になる訃報のようなものが届いたわたしちゃんはまるで人が変わったかのように行動し始めます。
最初はおじいさんの後を追うわたしちゃんを危険だからとYや助手さんは止めていたのですが、その傍若無人っぷりにもう止める事さえできず・・・。
なんて始まり方でしたけれど、これ妖精さんたちが動かしていたのですね。その頃、わたしちゃんの心は夢列車に乗って人類と妖精の歴史を見ていました。
目的はどこかに、人類の歴史の中で月に行く方法があるのではないか?ということ。やはりおじいさんを探しにいくつもりらしいです。
妖精さんの昔・・・あんな感じだったのですか・・・もはや妖怪めいた姿でしたが、よくあそこまで可愛らしい姿になることができたなあ・・・。
とはいえ、妖精さんと人間とのエピソードは心温まるものばかり。こういうほのぼのさも忘れず入れて来てくれます。
しかし現実は緊迫している。おじいさんを探しに行かなければなりませんから。しかし夢列車、これ検索エンジンのようなものらしく。
月 行き方 という検索の仕方で必要なエピソードだけ見ることが出来る優れ物。少し前に訪れたおじいさんは全て見ていったらしいですが。
月に行くために遥か昔、人類が作り上げた月と直接結ぶエレベーターという手がかりを発見。その前に心だけでも月に移動するのですが、ここでおじいさんに来るな、と言われてしまうわたしちゃん。
それでも現実に戻って止めてくるYたちを振り切り、月に行きます。本気で止める友人Yというのもなかなか珍しく目頭が熱くなりましたが・・・どこか悪友めいた書き方をされる事の多いYですが、友達思いなんですね。
月まで移動するために妖精さんを数人用意。お菓子の準備もしたものの、数が少なくここからは節約しなければいけません。
一番最初の設定、妖精さんがいると人が死ににくいというものをここでも活かしています。ただお菓子や人間がいないと増えないのでピンチではありますが。
なんとか冒険を繰り返し(わたしちゃんほんと冒険することの多い人生・・・)、おじいさんの住んでいると思わしき、居住スペースに着くものの、中は恐ろしいことに。
8巻のときに使った睡眠剤の鎮痛剤バージョンを飲んでなんとかしのいでいたおじいさん。しかし妖精さん1人ではどうしようもなく、死という概念をあやふやにして、今も思念だけは生きているような状態に。
すなわち半死半生。肉体は死亡しつつも、心だけは生きている状態に。
訃報とはいえなんだかんだ妖精さんの力でさくっと解決するんだろうなあ、と思いきや、それも出来ず。さらに一度死んだ人間を生き返らせることはモラルに反する。
わたしちゃんはそのことに気付き、妖精さんにおじいさんを生き返らせるよう頼むことをやめました。
そこでおじいさんは一言「人間になれたな」と。
え・・・?このセリフがなんなのか、どういう意味なのか。読んだ当初は訳が分からず、さらに直接的に書かれていなかったのでうんうん唸って考えました。
話は戻り、どうやって地球に帰るか、という話に。帰る目処がつかないなか、逆に友人Yたちが月に迎えに来たのです。
感動的・・・。それでも宇宙船は壊れてしまったので、帰る方法はみんなで考えなければいけませんが・・・。
来たのは友人Y,助手さん、Kさん、それにO太郎やP子、巻き毛などなど。今までのわたしちゃんの繋がりを考えさせられる人達ばかり。
一番驚いたのは助手さんが普通に話したところ。しかもべらんめえ口調。思っていたキャラと違う。わたしちゃんのことを姐さんと呼んでいますし。
なんとかYたちの持ってきたお菓子たちで妖精パワーを駆使しつつ(とはいえ、まさかの月から階段を造り、2カ月かけて帰るという地味な方法)、なんとか地球まで戻って来たのでした。
最後の白衣を着たわたしちゃんの挿絵は感動しました。おじいさんは思念となって余生を月の研究をするために月に残りましたから、調停官所長という役職はわたしちゃんものとなり、おじいさんの白衣をきて仕事に励んでいます。
最後におじいさんからの手紙が。
結局これはどういうことだったのか。
直接的な書き方をされていないのでわからない点も多いですが。
人類は衰退しました、というタイトルでも里はとても賑やかでほんとにこれ衰退してんの?と思われた方もいるかもしれません(僕もそう)。
しかし衰退していた。もはや絶滅といってもいいほどに。
残った人間はなんと助手さんだけ。では他の人達は?わたしちゃん含めて全員人間を模倣した妖精さんだったのでした。
衝撃的です。
助手さんが初めて来たときに、存在感が薄いだとか、しゃべらないだとか書いてありましたが、それはわたしちゃん達、妖精と違う存在で規格外だったため、認識しにくかった、ということなのでしょうね。
しかしおじいさんを生き返らせることをしなかったわたしちゃんにはモラルがあった、すなわち人間になれたので、助けに来た助手さんの言葉を認識できた、ということなのでしょうか。
いつしか、生意気生徒3人組を教えた時、取り換え子(生まれてくる時に妖精に取り替えられ不思議な力を持つ子供)だなんて噂がありましたが、なんのことはありません。助手さん以外の他の人達がそんな魔法の使い方を忘れただけで全員使えるものだったのです。
現にわたしちゃんは魔法を使っていましたしね。調停官として色々なものに干渉したりできたのもその魔法のおかげなんでしょうか。
歴史の中で妖精さんが死んでしまう、死亡という概念のある妖精さんが出てきましたが、あれもきっと人間の模倣なのでしょう。
素晴らしいどんでん返し。この作品にそういうどんでん返しはなく、最終巻までほのぼのと終わって行くものだと思っていたからびっくり。
これは感想を書かねばと読み終わってすぐこれを書いています。
とりあえずまだ短編集が残っています。最終巻その後の話が描かれているのか、それとも合間合間の話なのかは気になりますが、一度でもいいから最終巻後のいつものはちゃめちゃ具合なストーリーを読みたいですね。
ネタばれを読んでしまった人もこの真実を知って読む今までの巻というのも面白いですし、ぜひ一読してみてください。